Eternal triangle





 ヘンリエッタの無人島騒動が終わった、その翌日。朝日が昇って間もない頃。
ヴィルヘルムがノートを片手に台所で鍋をかき混ぜていた。
「おはよう、ヤーコプ兄さん」
「ああ、おはよう。どうした、今日は随分と早いな」
 人の気配に気付いたのだろう。振り向いたヴィルヘルムの挨拶に応じながらも、そう尋ねる。辺りに漂う香りからすれば朝食の準備は大分進んでいるようだった。
 ヴィルヘルムはしばらく無言で、鍋の中でお玉をカチャカチャと動かしていたが、大きく息を吸った後で意を決したように振り向いた。
「兄さん、これからは僕が料理を作るよ。僕は研究って言っても兄さんの手伝いが主だし、兄さんよりは時間を取ろうと思えば取れるから…」
 どうした急に、と言おうかとも思ったが、昨夜のヘンリエッタの言葉が大きく関係しているのは火を見るより明らかだ。
 からかうのも多少気が引け、また動揺して鍋をひっくり返されるよりは、と言葉を呑み込む。
「あまり皿を割るなよ。それと、どうせなら俺より美味いものをつくれるようになってくれ」
「ええ、勿論!」
 張り切って朝食の準備を再開する弟の背中を見守る。別に物を壊さないかと監視しているわけではない。
「お、おはよう、ございます」
 どことなくバツの悪そうに現れたルートヴィッヒに、挨拶を返して、ヤーコプは林檎を一つ投げる。
「うわっ!」
「今朝は、デザートに林檎でも、と思ったんだが…ルートヴィッヒ、頼めるか?」
「は、はい、勿論!!」


 この日より、グリム一家の台所は長男から次男に譲られることになり、その結果、グリム家特製煮込みハンバーグが誕生することになり、三男も少なからず料理が出来るようになった。

 そうして、彼らの大事な妹である少女は、比例するように元々近くもなかった台所から、さらに遠のくことになる。



後書き
 本当はこんな感じの話を「Wizard mantle」の最後に入れる予定でしたが、雰囲気を崩しかねなかったのでおまけという形になりました。
 タイトルの「Eternal triangle」は三角関係という意味です。


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